値引きイズムの終焉

値引きイズムの終焉
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お金のことをフランクに話す習慣

大阪堺筋に広がるでんでんタウン

店に入ると「気になる商品があれば、勉強するよ!」とよく声をかけられたものだ。

念のために言っておくが、この定員さんは、学ぶことが好きな関西のゲーテではない

ここは、グリコ、たこ焼き、食い倒れの大阪。勉強なんて誰もしないのだ

社会の授業中に、仏像の写真をハサミで切ってノートに張ってたら「必要なら、俺のも使ってくれ!」と熱い友情で写真を供給され、気づけばお互いの資料集がボロボロになるヤバい地域なのである。

関西では、身に着けている服の値段、住んでる家賃、職場の給料から貯金まで、お金のことをフランクに話す習慣が根付いている。

違う地域から来た人は、「なんてデリカシーがない人たちだ!」と驚かれるかもしれない。

そもそも気配りができる人は、ikariスーパーがある芦屋付近に住んでいる人だけで、日本橋のスーパー出玉を縄張りにするマダムにデリカシーなど期待しても無駄なのだ

プライバシーマークのPを駐車場だと思い込んでる関西マダムは、まるで挨拶をするかのように、頻繁に個人情報にアクセスする悪気のないハッカー集団である。

しかも、あなたが散々迷った末に何とか答えたとしても、実は、自分が聞いたことにそれほど興味をもっていないからタチが悪い。

このハイエナたちが最も喜ぶ情報は正しい金額ではない。

物なら何%引きで買えた。家なら見た目より家賃が安い。給料なら仕事の内容に対して多いなど、得かどうか” を共有できればよいのである。

安いよ!安いよ!文化

電気街に活気があった頃は、軒先で家電を見ていると、店員さんがやって来て、値札からどれだけ値引きできるかをアピールしてきたものだ。

本来は、値段より商品説明が先だが、世間の常識が通用しない大阪では、お客が最も反応する武器でいきなり勝負をかけてくる。

ひどい店だと、「あの店は高いから行っても無駄!」とか、「今決断したら、もっと値段を下げる!!」など強気の営業トークでまくし立てられる。

数分前に「ここが精一杯!」と熱弁していた価格は何だったのか。

そもそも、ギリギリの価格から、即決でもう一段値下がりするこの店は、3件先よりよっぽど酷いのではないかと感じたものだ。

このような「安いよ!安いよ!」文化がはびこっていた昭和の電気街では、ロダン像のように頬に手を当てて、買いそうな客を演じていれば、わざわざ交渉しなくても適正価格まで値段が下がった

労力をかければ、最安値を目指すこともできるが、そこまでの面倒はかけたくない。

業務の効率化、無駄の排除、KAIZENなど、何かにつけて仕事の主体性が求められる昨今、日常生活は “待ちの姿勢” でのんびり過ごしたいのである。

お得への細道

インターネットサイト “価格.com” の掲載情報を引き合いにして、家電の値引きを交渉する光景をよく見かける。

今や見境なく「勉強します!」の声をかけながら突撃してくる定員も減ってしまった。

流行のリスキリングで、関西のゲーテも勉学に目覚めてしまったのかもしれない

確かに事前に商品を調べ、店頭で実物を確認し、お目当ての商品を手に入れる購入プロセスはとても効率的だ。だが、どこか味気無く感じるのはなぜだろう。

古き良き “でんでんタウン” のショッピング体験が、心の奥底の引き出しに残っているからではないか。

これまでスーパー出玉のマダムたちを無神経と散々揶揄してきたが、「もともと高かった商品を交渉の結果、お得に買うことができた!」という武勇伝を誰かに伝えたいのだ

ビックカメラ、ヨドバシカメラ、ヤマダ電機の店舗で「他店より1円でも安い場合はお声がけください!」 のアナウンスを聞いたことがあるだろう。

この放送は、家電量販店による庶民に対する挑戦なのだ。

お得という満足感を手に入れたいなら、武器を持って自分から攻めてこい!」と鼓舞しているのだ。

スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学で語った有名なスピーチ「ハングリーであれ、愚かであれ!」を思い出しながら、勇気を振り絞って「これってもう少し安くなりませんか?」と聞いてみるとよい。

本当は「勉強してもらえますか?」の方が面白おかしく伝えることができると思うが、そこまでバカになれない

ましてや関西弁を理解できなかった店員に「どういう意味でしょう?」なんて聞き返されたら、恥ずかしくて値引き戦線から完全撤退することになるだろう。

誰もがそう簡単にジョブズになれるわけではないのだ

「申し訳ないのですが、この商品は値引きできません」。

何と赤いベストを着た青年は、交渉のテーブルに着く素振りも見せない。まるで、独裁国家の王のような立ち振る舞いではないか。

「なるほど。お得への細道は想像より険しいな。」

ここは、ハチ公、もんじゃ、雷門の東京。少し早い気もするが、袖に隠し持った印籠を見せる時かもしれない。

赤い帝国の手先め。このノジマ価格が目に入らぬか!」。

店舗3階には例のアナウンスも響き渡っている。まさに時機到来とはこのことだ。

勝利を確信する私に対して、表情を崩さない赤服青年。

画面を見ながら「これはポイント差ですね!」と、蒼天航路の曹操孟徳のような雰囲気で看破してくるではないか

彼曰く、店ごとで異なるポイントが価格差のように見えると云ふ。

こんな不甲斐ないやり取りで、のこのこ帰るわけにはいかぬ!」と気持ちを奮い立たせて、ほぼ定価に近い商品でもう一度交渉を試みる

「最近CMでよく見かける商品ですが、少し安くなったりしますか?」

「申し訳ございません。これは値引きできません!」

「この融通の利かない店員は何なのだ!!」

このままでは、草葉の陰から見守る出玉マダムに顔向けできない

一矢報いねばと「これ定価ですよね!(値段を下げる余地はあるだろう!)」と反語の意図を込めて聞いたところ、「メーカー指定価格です。」と一蹴された。

待ちから攻めへと転換期を迎えた家電値引きイズムは、いつの間にか、値引きそのものがない時代に入ったようだ。

店内アナウンスが「メーカー指定価格でない商品で、他店より1円でも安い場合はお声がけください。」に変わる日も近いことだろう。

値引きイズムの終焉

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