花見とは
毎年のことだが、花粉の症状が辛くなる春は憂鬱だ。
コロナ禍の日常は大変ではあったが、今はリモートワーク制度の浸透に心から感謝している。
この時期は食料の買い出しなどを除いて、なるべく外に出たくないが「桜を楽しむ」ことは唯一の例外だ。
「サクラなら遊歩道にもあるので、買い物途中にでも見れるのでは?」と思った人もいるだろう。
もちろん、福島県「三春滝桜」や山梨県「山高神代桜」、岐阜県「根尾谷薄墨桜」のような巨木の三大桜までは求めていない。
「お~スゴイ!」と感動できるぐらい程度の花見がしたいのだ。
どれだけ目が痒くなっても、鼻みずに悩まされたとしても、これだけは譲れないのである。
上野恩賜公園や目黒川、千鳥ヶ淵緑道など、公園や川沿いに広がるサクラスポットは、どこも花見を楽しむ人でいっぱいだ。
目の前に広がる淡い薄桃色の花びらがストレス社会に疲れた心を癒してくれる。
平安時代では、貴族が櫻を見ながら歌を詠んだり、蹴鞠をして花見を楽しんだそうだ。
私に思いつくのは精々歌謡曲ぐらいで趣きも何もないので、江戸時代の庶民と同じくお酒と弁当の花見で十分だ。
若い頃は場所取りをして、家族や友人と春の訪れを祝っていたが、花粉症が酷くなってからは、長い時間外で過ごすのが辛い。
桜の花言葉は「純潔」「優美な女性」だが、ずっと眺めていてもお近づきになれるわけでもないので、名残惜しさを感じるぐらいが丁度よいだろう。
そもそも、友人や同僚と花見をしても、最初の30分ぐらいは威勢のいい近況報告を楽しめるが、それ以降は惰性の会話が続く。
少し酔ってきて、上司の悪口や自慢話などされたら目も当てられない。
目の前の美しい花たちもウンザリするはずだ。
ウォークイン・サクラ・ビューイング
私にとって理想の花見は「美しい情景を30分程度」楽しめればよい。
つまり、歌を詠む、酒や弁当で宴会を楽しむ、穴があくほど花を見るのではなく、満開に咲き誇る桜の横を歩きながら鑑賞する程度で十分なのだ。
当日の天気、行きたい場所、その日の気分で ”会いたい桜 (=押し桜)” を決めてアポなしで見に行く「ウォークイン・サクラ・ビューイング」でよいだろう。
ただ、森林総合研究所によると、現在日本には約600種類以上の桜があり、DNAから解析によればそのほとんどが雑種だ。
サクラ・ブリーダーでもない我々によって、数多くの品種から急に「押しを選べ!」と言われも困るだろう。
例えば、日本人に最も馴染み深い ”ソメイヨシノ” はいかがだろうか。
「どこにでもいる染井吉野の中からどうやって押しを決めるんだ!」と思った人はJR駒込駅前「染井吉野桜記念公園」に向かえばよい。
ここには、ソメイヨシノの親であるエドヒガンとオオシマザクラが植樹されている。
ドラゴンボールならナメック星の最長老みたいなものだ。きっとあなたの潜在能力を引き出してくれることだろう。
ITの世界では、従来のインターネットとまったく違う世界を体現する概念として「Web3.0」が注目されている。
多様化する家族のカタチとして同性カップルによる事実婚も徐々に広がってきた。
また、セーラー服姿で個性や自由を表現する4人組のダンスボーカルユニット「新しい学校のリーダーズ」が国内にとどまらず海外でも人気を集めるなど、これまでの「当たり前」が変わってきている。
雑誌Numberの記事で日本女子バレーボール監督をつとめた中田 久美さんが「常識の延長線上に勝利はない」と答えていたように「ウォークイン・サクラ・ビューイング」がこれからの新しい花見スタイルになると信じている。
桜プラスアルファの体験
「30分程度で押しの桜を見に行かない?」と家族を誘ってみた。
狐につままれた顔でぽかんと眺めてくる。気にもとめていないようだ。
まだ駒込の染井吉野最長老に潜在能力を解放されていないので、薄いリアクションにも納得できる。
少し経って「サクラに押しなどないが、写真映えするならよい」と言ってきた。
また、わざわざ30分のために外出するのは面倒なので ”桜プラスアルファ” の提案を付け加えてきた。
効率化と付加価値を徹底的に求めてくる外資系のボスのようだ。
なんだか面倒なので、狸寝入りして言ったことを忘れようとしていると「花見の前後で何か楽しめないかなぁ!」とプッシュしてくるではないか。
「何かではなくて、興味があることを具体的に言ってくれ…」なんて声に出すと叱られそうなので「SNS映えウォークイン・サクラ・ビューイング・プラスアルファ」を検討してみた。
プラスアルファの部分は、30分の花見を盛り上げる何かでよいだろう。
目黒川の桜並木沿いで毎年好評を博している「シャンドン スプリング ポップアップバー」、上野恩賜公園の桜をモチーフにした日本の美術品を展示する「博物館でお花見」などは趣向にあってそうだ。
花見ついでに博物館へ寄ったり、前から気になっていたカフェを巡ると1日が充実すること間違いなしだ。
新たなプランを得意げに話してみたところ、「インスタ映えのいちごシャンパンや美術品もいいけど、やっぱり桜が主役でないといけないよね!」とのダメ出しを受ける。
「痛いところを突いてきやがる。ボスからのオーダーに応えることで手一杯になり、本質を見失っていた自分が恥ずかしい。」
もし、彼女の戦闘力を測定していたら、潜在能力解放前にも関わらず、スカウターが壊れていたことだろう。
ただ、満開の桜は見るとキレイだが、写真に撮るとパッとしない。
白が強いソメイヨシノで画角全体を埋めると、どんよりとしたイメージになるし、薄いピンク色の表現も難しい。
ホワイトバランスや露出を調整すれば改善するようだが、デジタル技術で盛られた写真では、桜という優美な女性を上手く表現できない。
花びらの明暗、美しさを強調するには、被写体を活かすコントラストが必要なのだ。
そう考えると、目黒川沿い、上野公園は卒業だ。
大体シャンパンと桜で「ウェーイ!」とポーズを決めるような年でもなかった。
改めて調査して辿り着いた場所が、東京ミッドタウン「MIDTOWN BLOSSOM 2024」である。
ソメイヨシノを中心に100本の桜があって散歩道も歩きやすい。
何より、ビルという無機質な構造物と有機的なサクラのコントラストがたまらない。映え写真も間違いなしだ。
また、東京ミッドタウンにはお洒落なレストランやカフェも多いので花見前後のプランも組みやすい。
今回は「1個食べて心まで満たせるケーキ」を提供する ”ハーブス” へ立ち寄ってみた。
女子の多くは、ホールケーキ8号 (直径24cm) を10等分にした大サイズのケーキに釘付けになると思うが、高コスパのランチ (サラダ、パスタ、ハーフケーキ、ドリンク) をおすすめしたい。
11時から15時までと提供時間も長く、2000円程度お腹も心も満たされること間違いなしである。
あまりの満足感に花見を忘れて帰ってしまう人もいるだろう。
今回お伝えした「新しい花見のカタチ」はいかがだっただろうか。
近い将来、お手洗いの大行列や歩くのも困るほど混み合った場所の花見から、短時間で桜とプラスアルファの感動に出会える「コト消費」の時代がやってくることだろう。