思わず声が出そうになる
日常生活の中で思わず声が出そうになる瞬間がある。
ドア付近まで乗車客でいっぱいにも関わらず無理やり乗り込もうとする人、ラッシュ時のドア付近で降りる人を必至に妨げる人など、満員列車の “ドア付近攻防戦” に遭遇したときだ。
他にも、うっかり寝坊したとき、突然のパソコンフリーズ、家具の角に小指をぶつけたとき等、思い起こせばきりがない。
ただ、私のように、日々理不尽な世界で経験を積んだリーマン僧は、高度なアンガーマネジメント教育によって、多少のイライラ程度で声など出さない。
もちろん、皮肉を込めた “京ことば” による遠隔攻撃もできないので、俗にいう大人の行動でやり過ごすのだ。
感情との因果関係
腹が立っている状況で心の声を言葉にすると怒りの矛先と喧嘩になる。
わざわざ面倒に巻き込まれたくないから我慢するというのが本音であるが、憤怒や気疲れとは異なる感情で声が出る時もあるだろう。
Googleで “心の声がもれる” を検索すると、”緊張で高まる気持ちが抑えられないシーン” など、恋愛ドラマのような淡いストーリーの一幕が結果として表示される。
最近テレビで韓ドラをたくさん見ているので、悟りでも開いたのだろうか。
確かに「営業は恋愛似ている」と聞いたことがある。
ただ、溢れ出すまで言葉を待っていると商談は失敗して、オフィスは上司の小言で満たされてしまうだろう。
クライアントの機嫌を損ねないよう地雷を避けながら、熱意を言葉にして伝えないと物は売れないのだ。
このままだと残業が増えてNetflixを見る時間がなくなるのでもっと真剣に考えよう。そもそも “不時着後の淡い経験” もしていないおっさんが迷い込める世界ではないはずだ。
目を閉じて熟考を重ねてみたが、ブッダガヤどころか、御厨人窟にも縁がなかった私に開けるのは押入れの戸ぐらいで開眼できるはずもない。やはり、ドラマと現実は違うのである。
それでは、独り言はどうだろうか。一流選手は、ポジティブ暗示でプレッシャーから解放されるそうだ。
「明日は、出張なので朝5時に起きよう」ぶつぶつ言って寝ると、自己覚醒によって目覚ましが鳴る前に起きることができる。
私の場合はポジティブと言うより「遅刻できない!」プレッシャーに拘束されたネガティブ暗示となりとても疲れる。それでも寝過ごすから本当にやってられないのだ。
思い返してみれば、学生時代に楽しんだサッカーのPK戦、マーク試験で迷った際の回答、奥さんへのサプライズなど、「ここは、絶対外せないぞ!」の独り言は大抵当てにならなかった。
一端の学術論文のように、怒り、緊張、恋愛、独り言など異なる場面における心の声が漏れる検証を終えたので、そろそろ私の声が漏れた状況お伝えしたい。
文頭の “日常生活の中で思わず声が出そうになる瞬間がある” から、ここまで約1,080字の無駄話にお付き合いいただき感謝している。
テレビの “CMまたぎ” のような印象を与えたなら申し訳ないが、前後で同じ文章を繰り返していないだけまだましだろう。
書き手としての心情を吐露すると、サスペンス海外ドラマ “プリズンブレイク” のようにここで記事を終えて “To be continued…” とペンを置くことも考えた。
しかし、「前回の心の声は…」から始めても誰も理解できないのではないか。
もとより、マイケル・スコフィールドのような綿密な計画を立てれない私が冗長にストーリーを先延ばしできたとしても、隔靴搔痒な状況が皆さんを腹立たせるだけだろう。
民間放送は無料だから、多少のCMまたぎも許されると勘違いしている番組制作者と違って、責任感の強い私は、眠い目を擦りながらこの先を書き続けなければならない。
例えゴミブログだとしても、ジョンソン・エンド・ジョンソンしかり、我が信条 (Our Credo) の理念は揺るがないのである。
更に390文字が追加され、ここまでで1,470文字。
これ以上脱線すると、東京ディズニーランドの “美女と野獣魔法のものがたり” の順番を粘り強く待つ人の顔から笑みも消える頃だろう。
じゃぁ、これもって!!
幼い兄妹がスーパーの袋を抱えて私の前を歩いている。
人気テレビ番組 “はじめてのおつかい” のような光景を思い浮かべていただけると理解し易いだろう。
日本テレビのディレクターさん、素晴らしい番組を作ってくれてありがとう。どうかCMまたぎのダークサイドに落ちないことを切に願う。
兄はこの冒険に慣れているようで、妹の前を足早に歩いている。
一方妹は、小さな体には負担が大きいのか、荷物持って歩くことに明らかに疲れ気味で休憩が必要な状況だ。
「つかれたから、すこしまって!」妹の声に、振り返る仕草を微塵も見せず歩く兄。
「もくもくと歩みを止めない兄とへたばる妹の距離の差はまもなく1馬身!」 競馬実況で有名な杉本 清アナの声が聞こえてきそうなタイミングで、妹の足が完全に止まった。
この歩道は、車道との距離があるので安全だが、人通りが多いため 「これ以上距離が開くと、妹が兄の背中を見失う可能性がありそうだな…」と、心配になって前を確認すると、120cmぐらいの兄の背丈が小さくなっていない。
東野 圭吾さん原作ドラマ “新参者” の阿部 寛さんのように親指と人差し指を使って確認してみたが、大きさは変化していない。妹の状況を察した小さな兄が進撃をやめていたのだ。
それどころか、歩みを諦めた妹に近づいてくるではないか。
「ハイ!」と緑色のラムネ瓶の形をしたお菓子を手渡す兄。
ぶどう糖90%配合の “森永ラムネ” で妹の脳に栄養を行き巡らせ、歩くエネルギーを一瞬でチャージさせる狙いだろう。
そのやり取りは、アスリートを助けるトレーナーのようだ。もはや、”はじめてのおつかい” ではなく、NHK “プロフェショナル 仕事の流儀” の密着番組でもよかったかもしれない。
妹の小さなバッテリーが充電され、妹の顔に笑顔が戻る。いつの時代においても、子供を笑顔に変えるお菓子の力は素晴らしいものだ。
ホッとした小さな巨人が前を向いて、ウォールシーナ内側の自宅に向かって再び歩みを進めようとしたとき、「おもいから、これもって!」と妹から衝撃の一言。
困った兄は言葉がでない。状況から判断して、スーパーの荷物は二人で分担されている。
兄の袋が重たいことは間違いない。頑張っているがまだ兄も子供だ。仮に親と来ていたら、妹と同じく、早々に頑張りスイッチを切って、駄々をこねてもおかしくないだろう。
「じゃぁ、これもって!!」袋から野菜らしきものを兄に渡す妹。
「確かに袋2つはフェアーではない。でもあなたは兄なので、これぐらいのサポートは当然なのだ!」との静かな圧を妹から感じ、渋々受け入れた兄。
「ドア・イン・ザ・フェイス!」目の前で繰り広げられるやり取りに、思わず心の声を出してしまった。
譲歩的依頼法とも呼ばれている行動心理学のテクニックを駆使する少女に、リーマン一兵卒が舌を巻いた瞬間であった。