旅は道連れ、世は情け
私は、普段の生活の中でよく道を聞かれる。
先月は、出張先でランチの場所を探していたら観光客にバス停を聞かれ、その夜には「この辺りでいい居酒屋知りませんか?」と尋ねられた。
1日に2度は珍しい。もし少し外でウロウロしていれば、人生初のハットトリックを達成できたことだろう。
聞いてもいないのに「新鮮な刺身が食べたい!」と話しかけてくる陽気なおじさん連中に「私たちも出張で来ていて “食べログ” でお店探していたところなんです!」と地域について浅薄なことを伝え、さらっと通り過ぎようとしたところ「ここから繁華街は遠いですかね?」と食い下がられた。
私たちもこの辺りは不慣れと言ったにも関わらず、重ねて尋ねてくる神経が信じられないが “旅は道連れ、世は情け” とのことわざもあるので、昼間の観光客と同じようにGoogle Mapを見せながら「徒歩10分程度ですかね」と説明してあげた。
それほど離れていなかったが、住宅街からは2か所曲がらなければならなかったので、どこかの角でもう一度 “新鮮な刺身” のくだりを繰り返したことだろう。
おじさんズのどちらかが、一刻も早く “知らない場所ではググる” のスキルを習得してくれれば幸いだ。
日暮里と西日暮里
もう一つ自分でもよくわからないのが、周りに人がいる状況でも、高い確率で私に聞いてくることだ。
先日、駅で列車を待っていると、私の右側にスーツ姿の男性、左側に子ずれの女性がいたにも関わらず、スーツケースを引いた外国人が、わざわざ私の横で止まって、列車の乗り換えについて尋ねてきた。
右隣の男性は、平井 堅さんのように顔の彫が深く、私より外国人に見えたと思うが、世の中不思議なものだ。
「路線が複雑で、乗り換えがよくわからないのですが…」
「そうですよね。どこに行きたいのですか?」
「日暮里という駅です。」
浅草や新宿、渋谷ではなく日暮里とは渋い。どうやら日暮里の繊維街は、手芸好きの外国人にホットな観光スポットらしい。
包丁など調理道具で賑わう台東区のかっぱ橋道具街と同じようなものなのだろう。
我々日本人でも馴染みがない専門街に、外国の人が足を運ぶのは面白いなと感じつつ、念のため「西日暮里ではなく、日暮里ですね」と確認したところ、「東京の日暮里に行きたい…」と意味不明な返事が返ってきた。
「西日暮里は、日暮里と同じく東京にある駅名ですよ」と説明すると、「横浜を観光した際、神奈川県の東神奈川駅で乗り換えた…」云々を話してくる。
どうやら、方角が着いた駅を県と勘違いしているようだ。
細かいディテールを話すとより混乱しそうなので、とりあえず日暮里駅までの乗り換えについて交通系アプリを使って伝えることにした。
「山手線に乗ったら、西日暮里駅の次の日暮里駅で降りてくださいね。」
「山手線への乗り換えは、ここの駅でしょうか?」
私の画面が日本語表記でわかりずらかったのか、自分の携帯アプリでも再度確認してくるが、残念ながら彼のアプリも英語表記でなかったため、見てもわからない。
冷静に考えれば、互いの母国語を理解できるはずもないので、自身が普段使い慣れているアプリを見せ合って会話すること事態が不毛なやりとりだ。
もう一度口頭で説明を終えて、無事たどり着けそうか聞いてみたところ、西日暮里について再度聞いてきたので、日暮里のアナウンスが聞こえたら降りることをお勧めした。
幸い2つの駅は隣り合っているので、たとえ間違えたとしても、少し時間をかければ繊維街に辿り着くはずだ。無事お目当ての着物生地を見つけられたと信じている。
労多くして功少なし
道を聞かれて案内したところ、相手の言葉に耳を疑ったことがある。
去年の今頃、東京駅近くで仕事を終えて駅に向かっていたところ、観光客から八重洲口への行き方についてた尋ねられた。
東京駅内を通らずに八重洲口へ向かうには、丸の内北口から八重洲北口を結ぶ “北自由通路” を通るのが近道だ。
この辺りは、東京駅に馴染みがない人には難しいので、丸の内北口付近まで案内してあげることにした。
歩きながら、今日はどの辺りを観光したのか聞くと「皇居、銀座、キティ」と教えてくれた。
最後が良くわからなかったので、株式会社サンリオのキャラクター “ハローキティ” のポップアップショップか何と聞いたところ「ハローキティではなくキティ。クリスマスツリーが美しかった!」と言う。
「12月なのでサンリオショップにキティと一緒にクリスマスツリーでも飾っていたのだろう…」と少しモヤモヤしながら、何も答えず自由通路を目指していると、唐突に「昔の郵便局長室から東京駅の眺めが良かった!」との追加情報が与えられた。
恐らくこの観光客は、東京駅のランドマークとして有名な “キティ” も知らない奴が、丸の内から八重洲をつなぐ謎の通路を本当に知っているのか不安に感じたのだろう。
「昔の郵便局…、あっ、KITTE (キッテ)ですね!」
「そう、キティ!」
私の身元が確かになったようで笑顔が戻った。
更に、安心したのか「今度日本に来たときは、案内してあげる!」と言い放った。
丸の内駅前のKITTEビルは有名で何度も行ったことがある。そもそも私は東京を拠点とする日本人だ。
親切に案内したにも関わらず、怪しい人に間違われ警戒される。”労多くして功少なし” とはこのことを言うのだろう。