朝のモーニング
私は “モーニング” が好きだ。
ドリンクやトーストがお得な値段で提供されることも嬉しいが、朝の時間帯をのんびり喫茶店で過ごすひと時が心地良いのだ。
モーニングの聖地と呼ばれる名古屋では、ボリューム満点の老舗から “シロノワールのコメダ珈琲” まで、その日の気分で喫茶店を選べるらしい。羨ましい限りである。
私の生活圏では、星乃珈琲店、上島珈琲店、銀座ルノアールあたりが候補にあがる。
若い頃は、朝マックの限定メニューやドトールのモーニングセットでも楽しめたが、年齢を重ねた今では、店内の雰囲気や客層など、なるべくリラックスして過ごせる場所を優先している。
さよなら星乃珈琲店
「つぶあんバタートーストも捨てがたいが、少し野菜も食べたいのでサラダ&パンケーキにするか」。
ダウンライトの落ち着いた店内で、ゆったりとしたソファー座り、挽き立ての珈琲と美味しい朝食をいただく。
“珈琲豆マーク“付の星乃ブレンド、彦星ブレンド、織姫ブレンドなら、2杯目の単品価格の半額でおかわりができる。
有名なパンケーキやトーストと一緒に1杯目を終えた後、2杯目をオーダーして読書をするのが何より幸せだ。
この自宅から徒歩10分程度で到着する憩いの空間を長らく楽しんできたが、最近困っているのが、モーニングではしゃぐ客層が増えたことだ。
雑誌でモーニングが紹介されたことに加え、メニュー数も拡大されたので今や大人気。朝から列ができることもある。
店が潤ってサービスが強化されたことは嬉しいが、話し声でザワザワすると、以前と同じモーニングを注文しても何故か落ち着かず、読書の気分になれない。
思うに私は “モーニングではなく、モーニングの居心地が好きだった” のだろう。残念ながら、ここは私のオアシスではなくなったのだ。
「さよなら星乃珈琲店。カフェから喫茶に戻ったら是非教えてほしい。」
オアシスは何処へ
「定番のベーコンエッグ&厚切りバターサンドか、3種チーズのクロックムッシュもいいな。」 モーニングメニューが充実している上島珈琲店もよく足を運ぶ喫茶店だが、こちらも最近若い客層が増えきた。
通常のドリンク価格は、近隣のスタバやタリーズより高めに設定されているので、“メロンクリームソーダ” の映え写真目当ての客を除けば、以前はそれほど混んでいなかった。
いつの間にか星乃珈琲店と同じくモーニング目当ての客が増えて、快適に過ごせる環境ではなくなってしまったのだ。
ネズミ2匹と小人2人の主人公が、人生で遭遇する様々な変化への対応を書いたスペンサー・ジョンソンの本は有名だろう。
今ここにいるのは、可愛いネズミや小人ではない。世の中の変化についていけない単なる1人のおっさんだ。
ただ肩を落として「モーニングはどこへ消えた?」 とボソボソつぶやきながら喫茶店を探すストーリーに、いったいどこの誰が共感するのか疑問だが、駅前まで歩いてみると銀座ルノアールに辿り着いた。
「昨今のモーニングブームで、ここもガヤガヤしているだろう」と思っていたが、以前と変わらず落ち着いている。
紙おしぼりではなく、温かい巻きおしぼりの ”おもてなし” も素晴らしい。
厚切りトーストやスペシャルサンドなど、1ドリンクで2つまでボリュームたっぷりの食事ができるので、星乃珈琲店や上島珈琲店と同じように人気になりそうなものだが不思議である。
久しぶりにゆったりとしたモーニングを終えて、外に出て2階の看板 “喫茶室ルノアール” を見上げたところ、お世辞にもお洒落なカフェには見えない。
雀荘と間違えられてもおかしくないだろう。
ルノアールは、店内イメージを大正から昭和ロマンへと刷新したが、おっさん好みのレトロ喫茶である。
今後も流行に敏感なZ世代ではなく、後10年ほど昭和に寄り添った喫茶店を残していただけるとありがたい。