日本の若者は疲れている
日本リカバリー協会の「疲労状況調査」によると、8割を超える日本人が疲れている。
60代以降で数値が改善されるのは、仕事や通勤など就労関連のストレスから解放されるからだろう。
注目すべきは、元気な印象が先行する20代、30代の若者世代の方が中高年世代よりも顕著に疲れていることだ。
上司と部下、奥さんと子供など、社内外問わず板挟みの日々に苦慮する中間管理層よりストレスがたまる状況など想像もできないが、デジタルネイティブ特有の気苦労が絶えないのだろう。
バブル経済真っ只中に流行った第一三共ヘルスアの栄養ドリンク「リゲイン」のCMをご存じだろうか。
「黄色と黒は勇気のしるし。24時間戦えますか?」というキャッチコピーが人気を博した商品だ。
家庭やプライベートなどは二の次で、会社のために働きまくる「モーレツ社員」がサラリーマンの手本として教育された。
嬉しくも何ともないが、ドラゴンボールの”Z戦士”、セーラームーンの”美少女戦士”と同様に”企業戦士“を名乗ることもできた時代だ。
モーレツと効率
昭和から令和へと時代も進み、今は働き方改革の旗印のもと、モーレツより効率が声高に叫ばれている。
徹夜や休日出勤など仕事中心の人生ではなく、家族や趣味の時間を大切にするワークライフバランスが重要なのだろう。
先日、提出期限を過ぎているのに残業を断り、更に有給を重ねて個人連休を謳歌した問題社員の話を聞いた。
期限を守れないことは申し訳なく感じているようだが、友人との飲み会、旅行は前から決まっていたので調整できなかったそうだ。
恐らくこの社員は、仕事と飲み会、旅行を同列に位置付けているが、雇用契約の仕事は本来優先順位が高くなるべきだ。
「叱れない職場」が普通になった現代においても雇用契約のもと、社員には”効率“と”モーレツ“のどちらかを働く姿勢として選んでいただくのはいかがだろうか。
予定通り仕事をこなせる人なら、働く時間ではなく成果で評価すればよい。
「今日もお疲れ様!遅くまで頑張ってるね!」などを口走る先輩社員は上司失格だ。
疲れる前に仕事を終わらせるのが基本で、遅い時間まで働かないと仕事を終えられないのは能力が足りていないからである。
誉め言葉は「プロフェッショナルですね!」の一択だろう。
いつ働いているかわからないが、期限までに必ず結果を出してくれる人への賛辞にピッタリではないか。
このスタイルなら、有休を何日取得しようが、1日の勤務時間が数時間だろうが関係ない。
一方、経緯がどうであれ、会社が期待する成果がでなければ減俸、退職勧告を受入れる厳しい条件付きになるだろう。
年の瀬になると、戦力外通告を言い渡されたプロ野球選手と家族に密着するドキュメンタリーが放映される。
次の新天地を求めて、プロ野球12球団合同トライアウトで能力をアピールし、選手として声がかかるか、夢かなわずユニフォームを脱ぐかを決断する。
近い将来、各業界のリクルーターが退職勧告を受けたプロ社員を集めて事業プレゼンさせる社会人版トライアウトのような番組が作られるかもしれない。
「仕事の効率化は進めるけど、結果がすべてでは困る…」と感じた人は”モーレツ“を意識して働くと良い。
もちろん、栄養ドリンクを飲んで24時間戦える企業戦士になるのではなく、仕事にメリハリをつけると言うことだ。
普段は定時に仕事を終えてジムに行ったり、趣味の時間を楽しめばよいが、自身の仕事が遅れているときや、チームのメンバーが困っているときは「モーレツモード」に切り替えて、体調を崩さない程度まで頑張るべきだ。
「モーレツに働いても仕事が遅くて…」なんて思った人も心配ない。
周りの同僚は気にしていないようで、あなたの仕事ぶりをよく見ている。
モードを切り替えて一生懸命働いていれば「頑張っているな!」「何か手伝えることはないか?」と感じるものだ。
少し納期に遅れても、プロジェクトが失敗しても、誰かが見てくれていれば、あなたの評価が下がることはないだろう。
バカンス大国日本
どちらの働き方を選ぶにしても「なぜ8割を超える日本人は疲れているのだろうか?」
エクスペディアの調査によると、100%有休休暇を取得するフランス、スペインと比べて、日本の有給消化率は50%である。
「休むことで同僚に迷惑がかかる」「忙しい環境なので休みを言いづらい」など、休暇に罪の意識を感じる国民性なのだろう。
子供の頃、一定期間休まずに学校に通うと「皆勤賞」をもらうことができた。
広島カープの黄金時代を支えた衣笠 祥雄選手は2215試合連続出場の達成で「国民栄誉賞」を受賞した。
どちらも素晴らしい快挙だが「休まないことを美徳とする」日本の価値観は、子供の頃から形成され、社会に出て強化される。
もうそろそろ「勤勉」と「無理をする」を分けて考えるべきで、社会全体として休暇へのイメージを変えていくべきだろう。
ランチタイムに5月連休の過ごし方を雑談していると、新入社員が「欧米のように長期休暇をとってゆっくりしたい」と言ってきた。
フランスやスペイン、イタリアなどは、有給休暇が年間約30日付与され100%近く消化される一方、アメリカは19日で75%とそれほど長期休暇を楽しんでいる国ではない。
特に、米国は徹底的に効率化した状態でモーレツに働いて給与を高めていく社会なので、プロフェッショナル以外の人は、おちおち休暇など取っていられないのだ。
「日本の有給は年間20日付与、50%消化利率なので、アメリカより5日ほど休暇が少ない (= 日本は働き過ぎだ!)」と思った人も間違っている。
日本の祝日数は世界一位の17日で、フランスや米国より7日ほど多い。
つまり、現時点で日本人はアメリカ人より多く休暇を取得している「働きバチもどき」なのだ。
さらに、有休消化率100%を目指すと、年間休暇数は37日となり、ヨーロッパ諸国の40日に匹敵する休暇王国の仲間入りである。
「休みの概念をどのように考えるかで、日本は世界一バケーションを楽しめる国だよ!」と休暇大好き新卒に説明すると目を輝かせて頷いていた。
4月入社で、まだ本格的に仕事をしていないはずだが、長期リフレッシュを期待するほど疲労が溜まっている若者の日常をもう少し知ってみたいものである。